日本の個人、独立系開発者【1】スタジオルーペ（2/2） #iPhonejp

iPhoneだからこそ、登場することができた才能 「発表された時から、iPadは絶対これだって思ってました。アメリカでの発売と同時にゲットするためにAppBankの@kazuend（ツイッターアカウント）君とハワイのアップルストアまで買いにいったのですが、実物を見て、ますますその考えが強まりました。iPadは、絶対にみんなで対戦プレイをするのが楽しいデバイスだと思います」。 　iPhoneアプリではプレイヤーひとりと時間との戦いを、テーマというよりも強く、作家性というレベルで感じさせたスタジオルーペだが、iPadでは一転、プレイヤーと誰か他のプレイヤーとの戦い、遊びをテーマにしたゲームをリリースしている。（時間との戦いというテーマは）「倉西さんに言われるまで、自分では思ってもいなかった」というリオさんだが、iPadでの多人数プレイに関しては、自覚的にそれをテーマとしている。おもしろいのは、それゆえにゲーム性、画面デザインやゲーム進行はiPhoneタイトル以上にシンプルになっていることだ。起動即プレイスタート！　という感覚もまた、多人数で遊びことを前提としているのだろう。 リオさんは、もともとプログラムを学んでいたわけではない。およそ1年半前にiPod touchと出会い、「このデバイスでなにかを作りたい！」と直感的に考えて、プログラムの教習本を3冊買ってきてデベロッパー登録をしたそうだ（しかし、それは結局、読まなかったらしい）。その後は自己流で試行錯誤しながら、アプリを作り、リリースし続けている。そういう経歴なのに……と書くと失礼だが、スタジオルーペのアプリには不具合がほとんどないことには驚かされる。また、さらに驚かされるのは、およそ1か月に1本というハイペースなリリースを続けながら、まだまだ作り切れないほどのアイディアがあるということだ。あるというよりも、実際に話してみると、次から次へと思いついて思いついてしょうがないという印象を受ける。あるアプリを作っている時に他のアイディアを思いついてしまい、がまんできなくなってそっちを先に作ってしまったということもあるらしい（「SUSOKU」がその例なのだが、着想から完成まで2日だったそうだ）。 「大ヒットタイトルがあるわけじゃないから、本当は月に2本くらいのペースでリリースしないと、個人デベロッパーは食べていけないからね」とリオさんは笑うが、iPhone／iPadの驚異的なスピードで進む大きな流れ、うねりに、なんら気負うことなくついていける感性には、ある種の新鮮さを感じる。 そう、僕がスタジオルーペ・タイトルに注目し、好感を持つ理由はそこなのだ。彼はプログラマーではない。ゲームはずいぶん遊び込んできたようだが、たとえばゲーム雑誌の編集者になるような、そんなマニアックさは持ちあわせていない。ただ、それゆえに、ストレートにゲームの本質に向かい、「なにかに挑むこと、なにかと競うこと」というテーマを導き出し、手が追いつかないほど思いついてしまうアイディアを、次々と実現し、世に問うている。「自分のアプリをもっと多くの人に遊んでもらいたい」と常に切望しながらも、他のデベロッパーの動向には、それほど注意を払ってはいない。このしなやかさは、個人デベロッパーというよりも、まるで一人のアーティストのようだ。 こういう才能が、歴史的な背景や必然性なしに登場してくる。これもまた、iPhoneというプラットフォームの大きな魅力だろう。 この記事のために行われたインタビューは、AppBankからポッドキャストとして配信されている。iTunesのPodcastタブから検索して、ぜひ聞いてみてほしい（写真左はAppBankの@kazuend君）。 ※この文章は、iPhonePeople 2010年07月29日発売号に掲載されたものです。 ※スタジオルーペタイトルをAppStoreで