日本の個人、独立系開発者【1】スタジオルーペ(1/2) #iPhonejp
簡単なパズルゲームが、シンプルな問いの答えを示す
ゲームはなぜ、おもしろいのだろうか?
スタジオルーペ。この名前を最初に目にしたのはAppBankの記事だった。タイトルは、「COLOR PAIRS」。まだ、最初の無料版がリリースされたばかりのタイミングだった(無料版は現在もダウンロードすることができる)。個人的には、普段はあまり興味を持たない、言ってしまえば「簡単なパズルゲーム」という印象だったのだが、画面のデザインセンスになぜかひかれるものがあり、ダウンロードしてみた。正解だった。この簡単そうに見えたパズルゲームは、実際に簡単だったのだが、その簡単さを見事にゲーム性の中で消化していた。
キーワードは、時間との戦い。
その後、「iQ mirror+」「シンクロ・フィンガーズ」「SUSOKU」と、ハイペースでリリースされたタイトル群も、いずれもキーワードは同じ、時間との戦いだった。極めて簡単なことをプレイの中心とするゲーム。それを制限時間内に何回、正しくくり返すかに挑む。常に中心的なアイディアこそ違え、ここまで同じテーマをくり返す、作家性の高いiPhoneゲームの個人デベロッパーは、他にはちょっと見当たらない。
「時間って、ゲームにはつきものだと思うんですよ。たとえば僕のゲームは制限時間を設けていて、その中で遊んでもらうものが多いのですが、実際にはゲームプレイの外にも現実の時間が流れていますよね? 昔、よく言われませんでしたか? 親に。「ゲームは1時間でやめなさい」って。そう言われてしまうと、実際にプレイしているゲームの中には制限時間なんかないのに、1時間でやめなきゃいけなくなりますよね。ゲームの中、もしくは外に、常に制限時間はあると思うんです」。
「なぜ、時間との戦いに、ここまで執拗にこだわるのか?」。そう聞いた僕に、リオ・リーバスさん(スタジオルーペは、彼の個人ブランド)は答えた。この答えもまた、彼のゲーム同様、実に簡単だ。なるほどと、考えさせられる。
大手のゲームソフトメーカーであれ、個人のデベロッパーであれ、iPhoneのゲームについて聞くとよく答えられる常套句がある。「電車に乗っている時などのちょっとした時間にプレイしてもらえるように作っています」。それは疑う余地なく、正解だろう。ただ、このことに僕は疑問も感じていた。これはiPhoneに限らずPSPやDSでも同じなのだが、最近の携帯ゲーム機は優れた中断機能を持っている。好きな時にゲームを止めて、いつでもそこから再スタートできる。つまり、1回のプレイが短く終わるようになんて、考えなくてもいいのではないか? ということだ。ユーザーの時間がゲームによってコントロールされるのではなく、ユーザーがゲームの時間をコントロールすべきだ。それをわざわざ「1プレイは短くしました」というのは、ゲームの側の驕りではないのか? また、この言葉は「本当はこのゲームは長くて複雑な、作り込まれたものなんですが、iPhoneだから、携帯ゲーム機だから、こうするんです」というような言い訳にも聞こえてしまう(この点では、僕はスクウェア・エニックスの「ケイオスリングス」を高く評価している。コンシューマゲーム同等の大長編RPGでありながら、ユーザーが自由にプレイを区切ることができるように最新の注意を払って設計されているからだ)。まるで言いがかりのようだが、僕はその言葉を聞くたびに、違和感を覚えていた。
そんな僕にとって、スタジオルーペのタイトルは理想的なかたちで、あるジャンルのiPhoneゲームにとっての「時間」を表現してくれている。やるべきこと1回1回には、まったく時間はかからない。一瞬で終わる。ただ、それをどれだけ正しくくり返せるかというと、なかなか難しい。デザインのよさも手伝って、つい何度もくり返し遊び続けてしまう。キーワードは、時間との「戦い」。プレイヤー自身と、なにか対象となる他者を設定し、その軋轢を描く。ゲームとは、すべからく何者かとの戦い、何者かに挑むことを描くエンターテインメントではないのか? スタジオルーペの簡単なパズルゲームは、僕にそんなことを考えさせてくれる。
※この文章は、iPhonePeople 2010年07月29日発売号に掲載されたものです。
※スタジオルーペタイトルをAppStoreで