鎌倉に、AppBankというサイトがある。
この表現は、するっと読めてしまうが奇妙だ。「
iPhoneアプリと
iPadアプリをおすすめする」サイト/
AppBankは、確かに鎌倉に拠点を置いている。ただ、それは物理的な拠点にしか過ぎない。ネット上の存在、コンテンツ、活動である
AppBankは、当然のことながら、鎌倉という地理的条件によって規定、制限されるものではない。
それでも、僕は、そう書いてしまう。僕の中では、彼らの存在を知った早い段階から、
AppBankと鎌倉は分ちがたいものになっている。それは、個人的な憧れに起因するのかもしれないが、本稿とは直接の関係性はない。
「鎌倉、いいところでしょう。ごはんもおいしいですしね。私たちが
AppBankをメディアとしてはじめようとした時に、何か所か、他のところも見て回ったんですけど、結局、鎌倉に落ち着きました。最初から都内は考えていませんでした。私たちは人様に読んでもらうような文章を書いたことがありませんでしたから、書くことに集中できる環境がほしかったんです。だから、余計なノイズが入ってこないように、都内は最初から候補にしていませんでした。ただ、東京まで1時間で行けるところ、誰かに会おうと思えば会いに行くことができる場所でないといけないとも考えて、千葉の方も見て回ったり、いろいろ探して、鎌倉に落ち着いたんです」。
はじめて鎌倉を訪ねた日、五島(ハイクオリティなお
蕎麦屋さん)の庭の喫煙所で、
@entrypostmanさんからそう説明を受けた(のちに聞いたところでは、
@entrypostmanさんの好きな町であるサンフランシスコに似ているという印象を持ったという理由もあったらしい)。
約20年、僕はゲームライター/ゲーム雑誌編集者としてキャリアを積んできた。そのキャリアの中で、数多くのクリエイター、プロモーター、経営者、流通関係者と話してきたが、こう感じる相手はほとんどいなかった。
「そうなんだよ、俺も、そう思ってたんだよ」。
なぜか、ちょうどひとまわりくらい年の離れた
AppBankのメンバーからは、そう思わされることが多い。たとえば、常識的に考えれば「メディアは東京になければならない」。本当に? 僕はずっと疑問だった。伝えなければならないこと、伝えるべきことは、東京にしかない……というわけではない。ただ、その疑問に解を求める時間も機会もなく、東京のど真ん中で、まさにイケイケだった
PlayStationの、日本では事実上、唯一人の専門誌編集長として振る舞ってきたのだが、目の前に、それまで僕にとっては縁もゆかりもなかった鎌倉に、その疑問に具体的な解を出し、活動している集団がいる。
「そうなんだよ、俺も、そう思ってたんだよ」。
なんと敗北的な言葉だろう。もし本当にそう思っていたのだとしても、僕にはできなかったのだから。
※この文章はmobile ASCII掲載「鎌倉JAPAN」の取材記として書かれています。内容は、倉西自身の主観に基づくものです。