【撃たれ道 2/2】兆し #MW2
あえて誤解を恐れずに書かせていただければ（また、論点としては古い話なのですが）、日本のコンシューマゲームはこれまで、（一部の例外を除いて）物語を「語って」きました。「読ませて」きたと言い換えることもできるかもしれません。ゲームというかたちにパッケージングこそされていましたが、語りとは本質的に一方向の行為です。語って聞かせるものですから。相手の状態も問いませんし、また、語られるユーザーも、自分の都合のいいようにゲームをプレイし、物語を消費することができました。このことには、初期のコンシューマゲーム機のスペックも影響していたと思います。今からは想像もできない荒さのドット絵を表示して、そこにテキストを流すくらいしかできなかったのですから。ただ、日本のクリエイターはここで異様ながんばり、こだわりを見せました。スーパーファミコン中期以降のタイトルは、まさにドット絵の極み、匠の技とも言えるような表現を手にしていました。
一方、その当時、海外から入ってくるタイトルがテーマにしていたのはリアリティでした。人気スポーツがゲームの題材となって大ヒットするという構図は今も変わってはいませんが、その描画たるや信じがたいものがありました。似ても似つかない（というほどではなかったかもしれませんが）顔グラフィックを出しておいて、「これが●○（選手名）のバスケットゲームだ！」というわけです。信じられませんでした。とても日本では売れるわけがなく、「海外ゲームはこれだから」「海外ゲームはしょせん一部のマニアのものだ」という悪印象だけが残り、それは今も尾を引いている部分があります。
兆しは、PS2でした。
PlayStationレベルではまだまだでしたが、PS2以降、コンシューマゲーム機は海外のクリエイターが考えるリアリティをそのままストレートに表現できるマシンスペックを手に入れました。ここで、ある分岐が起こったのではないかと、僕は思います。日本のクリエイターは、そのマシンスペックを「語り」の精度を上げることに費やしました。ドット絵にカクカクの文字で表現されていたものが、とんでもなく美麗な、そして長いムービーに変わりました。キャラクターは肉声でしゃべるようになり、まさに「語り」の極致に至ったのです。
一方、海外のクリエイターも、それまで同様に「リアリティ」というテーマを実現するために、そのスペックを使いました。ただ、彼らが挑んだのは、より広範なリアリティでした。リアルなグラフィク、リアルな情景、リアルな世界、そして、リアルな時間。どうしてアングロサクソンはそうなのかなぁといつも不思議なのですが、彼らはゲームソフトの中に、はっきりともう1つの世界を詰め込みはじめたのです。ユーザーはゲーム機の前に座って語られるストーリーを読むのではなく、鼻歌でも歌いながら散歩に出るような感覚で、もう1つの世界に没入できるようになったのです。
長々と『COD MW2』とは関係のないことを書きましたが、結論は、そういうことなのです。僕自身はもともと他人からなにか言われたり指示されたりするのが大キライというかなに言われても聞きゃしない性質だということはおいといても、このモンスタースペックの時代に、受け入れられやすいゲームとは、少なくともゲームがドラマを生む手法の根本は、リアリティの追求なのです。そのことが、（この2つを同列に語るのはどうかと思いますが）全世界で1000万本以上『COD MW2』が売れる理由であり、僕が何万字も書いて書いて書きまくってしまう理由でもあるのです。
最後に。僕は『COD MW2』の国内での販売がスクウェア・エニックスによって行われたことを高く評価しています。これは絶対にポジティなポイントでした。また、詳細は省きますが、僕たちが『COD MW2』に注力してきたきっかけの1つは、スクウェア・エニックスのとある役員のツイッターでのつぶやきでした。現時点、世界最先端のゲームタイトルを、最先端を走るソフトメーカーが手がけ、新しいコミュニケーション手法で伝える。『COD MW2』にはそんな新しさを感じるということもまた、このタイトルのポジションを示していると思います。（株式会社アスキー・メディアワークス ゲームメディア主筆／倉西誠一 201008190000）
このテキストは、電撃FPS 2010年09月02日発売号に掲載されたものです。
コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア2（新価格版／PS3）
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